2023年度 公益社団法人浦安青年会議所
第44代理事長 島貫 征之
|はじめに
2011年3月1日、私は浦安で保育園事業を立ち上げました。 子どもが好きという一心で、子どもたちの未来に少しでも関わるという希望を胸に、25歳という若さながら一念発起したのでした。そしてその10日後、東日本大震災がありました。入園のキャンセルが相次ぎ、 開園当初の園児数は4名でのスタート。子どもたちの笑顔に囲まれ、仕事にやりがいを感じながらも、非常に厳しい経営状態にあることから逃れられない重圧を感じる日々を過ごしてきました。
それから4年後どうにか事業運営が安定しはじめた頃、私は浦安青年会議所と出会いました。これまでの苦しい経営状態から事業が安定するまでに至ったのは、紛れもなく浦安というまちのおかげであるということを感じていました。その恩返しのためにも、浦安市に貢献したい。そのような想いが、私を浦安青年会議所入会へと導きました。私の心に、「社会への貢献」という灯がともった瞬間でした。青年会議所は、私に多くの学びの機会を与えてくれました。浦安民にとっての「本当の幸せ」を探究する機会やまちの課題解決探究の機 会。
そして、浦安市に留まらず、日本全国への女性活躍推進やJCクラ ウドファンディングを広める機会、世界各国の青年会議所と交流を図り、恒久的な世界平和を青年会議所から築いていく機会、日本と中国のビジネス交流によって友好関係を構築する機会、青年会議所の諸大会企画運営や、組織改革の機会。どの事業に携わっていても、この世に生きるひ とりの人間として、こんなにも未来のことや世界の動向を考えることはありません。また、仲間と事業を構築しながら共に成長できる組織はありません。青年会議所は、自分が一所懸命にやればやるほど、私に成長の機会を与えてくれました。そして私は、いつしか自分の使命に気づき、その使命を果たすために、本業の領域を超えた青年会議所運動を通して、ひたすらに社会への貢献に力を注ぐのでした。
しかしこの時、私はまだ気づいてはおりませんでした。本当の意味での 「明るい豊かな社会」とは何なのか。社会への貢献によって変革された世の中が、必ずしも明るい豊かなものであるとは限らないということに。「社会への貢献」という機会は、私自身に充足感を与えてくれました。 しかし、自分のことよりも他者のために目を向けていた私の視界は、いつの間にか足元が見えておらず、未来のことばかりにフォーカスし てしまっていたのです。そして、そのことになかなか気づくことができなかった私に、天より人生の試練と選択肢が与えられました。このまま自分にとって本当に大切なものを失ってまで、「社会への貢献」を続けるのか。それとも、今足元を固め、人生をやり直すのか。そのような過酷な選択でした。そして、私はこの時はじめて「未来」と いう選択ではなく、「今」という選択をすることができたのです。この経験がきっかけとなり、私の人生の軸となる揺るぎない信念に 出会うことができました。そして、私は、「明るい豊かな社会」について、自分の中から答えを導きだしたのです。「明るい豊かな社会」とは、充足された現在の日々の積み重ねによってこそ迎えられるものであり、何かを犠牲にしてまで得られる成果ではないということ。自分自身はもちろん、家族や周りの人の心を十分に満たすことができなければ、真の「明るい豊かな社会」は実現できないということ。一見当たり前のことのようですが、私にとっては決して当たり前にしてはいけないとても大切な価値観でした。
今、青年会議所は転換の時期に差し掛かっています。事業経営者だけではなく、会社員でも主婦(夫)でも、まちのためや子どもたちのために少しでも力になりたいという思いがあれば、誰でも参加できるJCへと変わってきています。そのためには、私たち青年会議所の環境を見直すことも必要でしょう。そして、その先には、まちづくりや社会課題に主体的になれる人財が少しずつでも増え続け、その成果が「明るい豊かな社会」へとつながっていくと信じています。市外からの転入者が多い浦安市は多様性溢れる人財が多く、これまで以上に浦安市を盛り上げていく潜在的な能力がまだまだ眠っています。その市民一人ひとりにとっての「社会への貢 献」を呼び起こしていくためには、人々が地域に目を向けていくための求心力のある何かしらのコンテンツが必要です。そのコンテンツは地域に根付いた文化として育まれることで、当事者意識と地域間交流を涵養する場となります。そして、このような仕組みをつくっていくことができることが、 私達青年会議所の強みです。浦安市の市民性を活かし、市民一人ひとりが 個性を活かして互いに交流しながらより良い未来につなげていくために、 本年度は、多くの当事者と共に運動を展開して参ります。
|持続可能なまちづくり
青年会議所は、地域課題を解決し、「明るい豊かな社会」へと導く団体です。その地域の課題は何なのか。今の浦安市に求められているものは何なのか。私がはじめてまちづくりの委員長を務めた際、この疑問とどれだけ向き合ってきたことでしょう。当時は新型コロナウイルスのような災害級の感染拡大など予想もしませんでした。2011年の東日本大震災も同様に誰も予想もできないことが、ここ十数年で幾度となく起きています。平成30年に実施された「市政に関する市民意識調査」 では、市民が求める重視すべき施策として「震災対策」が最も高い結果となりました。私たち青年会議所は、2011年に災害ボランティアセ ンターにおいて中心となって活動し、さらに2016年には、浦安青年会議所と浦安市及び浦安市社会福祉協議会との災害時の三者協定を結びました。しかし、それでもまだまだ私たちの予想をはるかに超えた災害 が起こる可能性に対して備えていく必要があるのです。あらゆる未来を想定しなければならない今だからこそ、私たち青年 会議所は未来を見据えたまちづくりを行っていく必要があるでしょう。 また、現状を認識し政策本位による政治選択を行う機会も必要となるでしょう。これら2つの運動によって得られる成果は、紛れもなく市民自身の社会課題に対する当事者意識の醸成です。これからの未来において、 いつどんな災害が起こるかわかりません。予想もできない未来のために、 未来の当事者とともに備える必要があるのです。そして、その未来の当事者というのは、決して私たち青年会議所のメンバーだけとは限りません。 その先の世代、もしくはそのまた先の世代。いくら月日が経とうとも、強固な浦安市を継続していくために、私たちにはやるべきことがあるのです。自分自身が身を持って経験したことほど、主体的な学びとなります。 私たちは、この青年会議所に入会したことで、まちづくりを真剣に考え 始めました。その経験は、私たち青年にしかできないことでしょうか。 いいえ、私たちよりも次の世代へと機会を提供し、この経験を伝承していかなければなりません。それこそが、持続可能なまちづくりであると 私は定義しております。私たちは本年度、市民の当事者意識を醸成し、 持続可能なまちづくりへとつなげていきます。
|自主性ある人づくり
人は経験を通して学ぶことができる。自分が物事の当事者と なればそこには主体性が生まれ、自主性ある人間へと成長する。 経験しなければ感じ取れない感覚や当人にしかわからない苦労、 そしていかに今が恵まれた環境であるかということは、経験を通して学んだ人こそ気づけるはずです。 世界を知って日本を知る。日本を知って、浦安を知る。 私がそう感じたきっかけは、2019年に関わった日本と中国の経済交 流事業と青少年交流事業にあり、この経験はまさに私の世界観を広げ、成長させてくれました。日本と中国の100対100のビジネスマッチングは かつてない規模で執り行われ、外務省等の官公庁への表敬訪問や、日本のサスティナブルな事業経営を行う企業への視察など、私は一週間すべてのプ ログラムを担当させて頂きました。この経験によって、民間外交においてこんなにも国同士の距離間が近いものだということを実感し、浦安の子どもちにもぜひこの国際の機会を提供してあげたいと思うようになっておりました。
このような事業を経験できたのも、世界各国へのネットワークを持つ国際的 な組織である青年会議所ならではではないかと考えます。「JCI」という 三文字で全国どこへ行ってもつながれるというのは、決して日本だけではあ りません。世界においても共通のことであります。しかし、近年では国際的 な事業の減少から、青年会議所の魅力のひとつである国際の機会を実感できる機会もあまりありません。昨年度、私たちはSDGsを推進する事業を行いました。そのSDGsの推進においても、世界的課題をもっと身近に 感じる機会を経験した人間とそうではない人間では、課題解決に向けた主体性に差が生じていました。地域課題だけではなく、国際的な課題解決に対して自主性を持つには世界へ羽ばたくしかないのです。そして、その機会を実現できるグローバルなネットワークを持つ組織こそが青年会議所なのです。
しかし、私たちはただ単に世界へ出れば、グローバルな人財へと昇華できる わけではありません。そのためには、自国に誇りを持ち、自国のアイデンティティを決して忘れないという精神も必要であると考えます。そのような意味では、自国の歴史ある競技である相撲を、小学生を対象に毎年開催している「わんぱく相撲浦安場所」には、自国のアイデンティティの基礎となる文化が詰まっています。
礼儀と礼節を重んじた競技にこそ、日本の良さが表れているのではないでしょうか。そして、自国のアイデンティティが何なのか、それが明確となった人間は、しっかりとした軸足でもって、世界に行っ ても自国の良さを伝播できる人財となるでしょう。世界を知り、日本を知る。 日本を知り、浦安を知る。どんなスケールにおいても、自分事と捉える自主性がこのまちの未来には必要不可欠なのです。
|誰一人取り残さない組織づくり
青年会議所という団体のメンバーは、20歳から40歳までで構成されているという共通した属性がありますが、職業などは様々です。さらには働き方も違えば、結婚や出産を機に家庭状況も大きく変わる年代でもあります。それだけライフサイクルが大きく変化していく年代のなかで、青年会議所の活動に対してコミットし続けていくことはとても難しい ことでしょう。ワークライフにさらに、青年会議所の活動をプラスした 「ワークライフJCバランス」。あらゆる仕事や生活環境があるなかで、青年会議所メンバー全員がこれを実現できるということは、決して容易ではありません。私は4人の子育てを通して、仕事と生活のバランス以前に生活の一部である育児と家事の両立だけでもどれだけ大変なことか、身を持って経験してきました。もちろん、そのような生活バランスへの感度ですら妻の足元には遠く及ばないでしょう。
では、どうしたらすべての人が「ワークライフJCバランス」を保つことができるのか。私には、2つの方法があると考えています。
その1つが、昨年認証することができた『育LOM宣言』です。「家族とJCを分けるのではなく、家族と一緒にJCの素晴らしさを分かち合う。」とても素晴らしい発想のもとの改革でした。しかし、家族を巻き込むというのは、決して容易なことではありませんでした。 やはり、ここでも家族の前に自分自身。その心を満たさなければ、 次のステージへと進むことはできないのです。 ではどうすれば、青年会議所に対して、自分自身の心を満たすことができるのか。その答えが、もう1つの答えになります。それは、青年会議所に対する活動量をひとくくりにしないということです。 具体的に述べると、週に2回も3回も活動ができるメンバーがいれば、週に1回しか活動できないというメンバーもいる。もしくは、月に1回が限度だというメンバーもいるでしょう。
このような差が生じてしまうのは、当然のことであり、大事なことはこれを許せる風土が組織のなかにあるかないかにあります。「許す」 とは受容するということ。面と向かって、真正面から受け止めるということです。同じ青年会議所の正会員であるのに、活動量に対して差が生じてしまうということは、誰かが重荷を背負わなければならない時もあれば、その重荷を背負わせてしまったことに負い目を感じてしまうメンバーがいるということです。一度負い目を感じて、青年会議所から距離を取れば取るほど戻りづらくなります。自分一人では戻れず、最終的には誰かに引っ張られてでも戻れなくなってしまうのです。 私たちは今、誰一人取り残さない組織づくりのために、青年会議所メンバーとしての最大の事業発信の場である例会の機会をすべてのメンバーに改めて提供をしたうえで心理的安全性を確保し、青年会議所メンバー一人ひとりの生活環境に寄り添っていく必要があります。
あらゆるレベルにおいて包括的で代表的な意思決定を確保するうえで総会があります。すべてのメンバーに例会に参加する権利があり、すべてのメンバーに議決権を行使する権利がある。しかし、人にはそれぞれの事情があるのです。それらを受け入れ、その限られた時間でいかに信頼を築き、事業の質だけではなく仲間としての絆を深めることができるのか。そのような都合を受け入れる風土が必要です。このよう な風土は、青年会議所だけではなく、当然会社経営にも必要なことで あります。つまりは、この経験でさえも自己成長だということです。 受け入れれば受け入れるほど、自己の成長につながっていくでしょう。 「許す」とは、他者のためではなく、自分のために行うものと考えれば、他者をコントロールしようとする概念そのものがなくなり、安定した充足感を感じる精神性へと昇華していくことができるでしょう。
|求心力のあるコンテンツ
これまでいくつかの青年会議所の魅力を述べてきましたが、青年会議所の魅力が一番はどこにあるのかというと、それはやはり「魅力的な事業」そのものにあるのではないでしょうか。
事業を構築している時のワクワク感は、仕事とは異なる自由な発想で少し空想的な想いを馳せるな かで抱くことがあります。それは、まさにまちの文化祭。青年会議所が全国各地で新たな文化を立ち上げ、今や地域に欠かすことのできないイベントやお祭りとなった例は数え切れません。しかし、浦安市では、新たな文化の創造を目的に開催されたウラヤスフェスティバルが終了し、 浦安市全域を巻き込んだイベントも年々減少しています。前述した通り、浦安市にはこれまで以上に浦安市を盛り上げていく潜在的な能力がまだまだ眠っており、その市民一人ひとりにとっての「社会への貢献」 を呼び起こしていくためには、人々が地域に目を向けていくための求心力のあるコンテンツが必要なのです。
そして、そのような求心力のある コンテンツをこの浦安市に新たに立ち上げるとすれば、まさに今なのです。 新型コロナウイルスという長い夜がようやく明けようとしています。今こそ、私たち青年会議所が持続可能なまちづくり、そして自主性あるひとづくりのために立ち上がる時なのです。
|なによりも自分たちが楽しく元気に
では、多くの人を巻き込んだ「魅力的な事業」を実現するために、何が一番大切か。それは、組織内の枠を超え行政・他団体との連携やOB・OG諸兄姉との絆にあります。多角的に広まった絆こそが人々を巻き込むことにつながります。そして、人を巻き込むためには、人の心を掴む情熱がなければはじまりません。 青年会議所がこれまでの歴史と伝統を紡いでこられたのは、何よりも若き青年らしく、情熱を燃やしてこられたからではないで しょうか。
今、その情熱の火は、外部の方々まで届けられている でしょうか。決して十分に届けられてはいないと感じています。 青年会議所が元気でなければ、まちは元気にならない。 数々の先輩諸兄姉は言いました。私はまさにその通りだと思っています。新型コロナウイルス感染症の流行という未曾有の事態によって、 人間の活力がどれだけ奪われてきたことでしょう。明けることのない夜が続いているような感覚になる時すらありました。しかし、そのような時だからこそ、私たち青年会議所がいるのです。私たち青年会議所が誰よりも元気でいることが、このまちの人々へのエネルギーとなり、まちに未来に活力が生まれるのです。私たちの元気を、まずは先輩諸兄姉にお届けしましょう。
そして、40歳までという限定的な時間である青年会議所の貴重な時間を大いに楽しみましょう。青年会議所は「人生最後 の学び舎」とも言われています。人生最後の学び舎は、どんなことがあっても笑って終える。それが、青年会議所を全うした証であります。
|むすびに
青年会議所が展開する運動は、社会への貢献ではなく自己満足になってしまってはいないかと自問自答してしまうこともあります。 それは、自分自身や家族という今を満たし、それによって余ったエネルギーにおいて社会への貢献を実践するという順序や価値観が崩れてしまうことにあるのではないかと私は考えます。しかし一方で、 青年会議所が地域に及ぼす影響力という面では、可能性を感じずにはいられません。ワクワクせずにはいられないのです。青年会議所の運動によって、直接的または間接的に必ずや地域に貢献することができる。それは、今すぐに成果が表れるものではないかもしれません。しかし、数年後の未来を見据えて、未来の浦安のために私たちに今できることを実践していく。その成果は誰にも測ることはできないかもしれませんが、自分を信じて、青年会議所を信じて貫いていくことしかできません。それでも、希望を持ち続けるのです。 なぜなら、私たちは青年なのだから。
そして、青年会議所は、やればやるほど更なる機会を手にできる組織です。千葉県や関東、日本全国というスケールで、事業スケールだけではなく、自分自身のステージを上げていくこともできます。 その選択は、メンバーの権利であり、自由な選択です。この地球上、いいえ、地球を超えたどこまででもステージを上げていくことは可能です。全員で手と手を取り合い、機会を掴みに行きましょう。
なぜなら、私たちは青年なのだから。
|事業計画
1.誰一人取り残さない組織の確立
2.持続可能なまちづくりの基礎を培う事業の実施
3.国際社会に向けた自主性ある青少年育成事業の実施
4.求心力のあるコンテンツを創造する事業の実施
5.青年会議所の元気を発信させる事業計画発表会の実施
6.メンバー全員で達成する12名の会員拡大
7.第36回わんぱく相撲浦安場所の開催
8.OB親睦会の開催
9.総会の開催
10.卒業式の開催
11.SDGsの推進
12.友好団体との連携・協力
13.公益社団法人日本青年会議所への積極的な支援・協力
14.公益社団法人日本青年会議所、関東地区協議会、 千葉ブロック協議会の諸会議・諸大会・諸事業への 積極的な参加